ヤング・サイエンティスト・シンポジウムは、PhRMAが2013年に発表した、基礎研究に携わる日本人の若手研究者を対象とした人材育成支援プログラム『ヤング・サイエンティスト・プログラム』の一環として実施するものです。
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遺伝子編集・解析やイメージングなど分子生物学研究における技術の進歩はめざましく、がんや難病とはじめとする多くの疾患の分子メカニズムが明らかとなってきています。こうした病態の解明は、化合物スクリーニング、動物モデルを用いた非臨床試験などのステップを経て、臨床試験における検証へと展開されています。本講演では、神経変性疾患に対するトランスレーショナルリサーチ(TR)の実際を紹介するとともに、今後の展望についても解説します。
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)はアンドロゲン受容体(AR)遺伝子におけるCAG繰り返し塩基配列の異常延長を原因とする神経変性疾患であり、異常AR蛋白質が運動ニューロンの核内に蓄積することが病態の本質と考えられています。我々はモデルマスウを用いた解析により、本疾患におけるニューロン変性の病態がテストステロンに依存していることを明らかにし、この仮説に基づきテストステロンの分泌を抑制するリュープロレリン酢酸塩のSBMAに対する第Ⅲ相臨床試験を実施しました。その結果、罹病期間が10年以内の被験者のみを対象としたサブ解析では有効性が示唆されたことから、発症からの期間が薬効に影響を及ぼすと考えられました。これらの結果は、神経変性疾患の分子標的治療が可能であることを示唆する一方で、今後の開発をさらに推進するために発症前~早期の治療介入、ヒトの病態に基づく治療法開発、臨床試験デザインの改良など、いくつかのイノベーションが必要であることを意味していると考えられます。
基礎研究を臨床応用していくためには、病態の本質に迫る基礎研究の結果と、それを検証するための臨床研究手法が必要不可欠です。臨床応用は研究のゴールではなく、基礎研究の成果を臨床で検証する中で生じる疑問をさらに解決していく、臨床から基礎への展開(リバースTR)も重要です。本講演が、TRによってどのように研究と医療が変わるのかを皆さんに考えていただくきっかけになればと思います。
Johnson & Johnsonの海外におけるオープンイノベーションへの取り組みと日本におけるチャレンジ
弊社は、ジョンソン・エンド・ジョンソンにおけるイノベーションの推進、すなわち「リソースとアイデア、そしてテクノロジーを強力なネットワークで結ぶこと」を実現し、新しい価値を継続的に生み出すために、世界的な科学技術の拠点であるカリフォルニア、ボストン、ロンドンそしてアジアパシフィックにジョンソン・エンド・ジョンソンイノベーションセンターを開設した。弊社の目標は、医薬品、治療用医療機器、コンシューマー製品の領域における新たな価値・イノベーションを発掘し、育成して革新的な医療ソリューションとして進化させることにより、世界中の人々の生活改善に寄与することにある。
これを実現するため、各イノベーションセンターには、担当地域におけるアカデミア、バイオベンチャー、製薬企業、投資家ならびに政府機関など、イノベーションの発掘・育成・促進に必要なパートナーとの関係構築やプロジェクトの提携を円滑に進めるために、科学、事業開発、法務、財務、プロジェクトマネージメントなどの専門家を擁し活動を行っている。また、ヘルスケア分野におけるスタートアップ企業を育てるためにレンタルラボ(J-Lab)を運営し、地域のライフサイエンス・エコシステムの発展に貢献している。
本講演では、弊社のオープンイノベーションへの取り組み、特に米国のケースを中心に紹介し、日本の現状についてグローバル企業の視点から考察する。
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)は、医療分野の研究開発及びその環境整備の中核的な役割を担う機関として2015年4月に設立された。AMEDの管理する研究事業は文部科学省・厚生労働省・経済産業省の3省の予算に計上される一方で、2016年度は内閣府に計上された科学技術イノベーション創造推進から調整費が充てられた。
AMEDでは、9つの重点分野を中心とする医療の基礎から臨床までの研究開発を一貫して推進しており、その一つである「オールジャパンでの医薬品創出」分野では、アカデミアや産業界と連携しながら、新薬の創出や、革新的医薬品、希少疾病治療薬などの研究開発を支援している。
このたびは、戦略推進部医薬品研究課における事業を中心に、産学協働スクリーニングコンソーシアム(DISC)や次世代蛋白質間相互作用(PPI)阻害ライブラリと中分子創薬、構造展開ユニット、ベンチャー支援事業、そして、参画企業も一定の研究費を拠出する産学官共同創薬研究(GAPFREE)などのAMED設立後に企画立案した事業を紹介したい。
なかでも、GAPFREE事業は、米国NIH-NCATSや英国MRCの官主導の産官学共同創薬研究プロジェクトとは異なる日本独自のpublic private partnership創薬モデルである。民間資本だけでは滞りがちな医薬品開発プロセスやその問題点を見つけ、アカデミアや企業の需要をマッチングさせ、ファンディングすることにより、研究だけでなく人材や情報の交流の活性化を図りたい。まだ始まったばかりでありサイエンティフィックな成果はまだ上がってないが、企業研究者と医療系アカデミア研究者、また、通常はコンペティティブな企業同士のコミュニケーション促進という成果は出始めている。
AMEDは設立後間もない段階ではあるものの、研究者や企業からのフィードバックを受け、日本のアカデミアや企業の成果やノウハウを創薬に活かし、国民に還元すべく、今後も司令塔として基礎から実用化まで一貫した医療系研究を支援していきたい。
アカデミアによる分子生物学の研究成果を創薬開発につなげる試み
アカデミアによる分子生物学の研究成果は、論文や学会での発表により学問としての価値を生み出し、若手研究者のモティベーションやキャリアパスに大きな影響を与えている。一方で、分子生物学の研究成果を創薬などの実用化につなげる取り組みが、ますます重要視されるようになっている。
我々は最近、東京大学との共同研究にて、既存のシステムよりも著しく効率的に血液脳関門を越えて脳に到達するドラッグデリバリーシステムを開発した。大部分の薬が脳に行きわたらないために多くの脳疾患が難治性となっている現状を考慮すると、我々の研究成果は様々な脳疾患に対する創薬へとつながる可能性がある。この成果を基に、東京医科歯科大学と東京大学の双方発のベンチャー企業「Braizon Therapeutics」社が設立され、トランスレーショナルリサーチへと進展した経緯を紹介したい。
また、抗体医薬に続く次世代の分子標的療法としての期待が大きい核酸医薬として、従来からのアンチセンス核酸やsiRNAよりも標的分子の優れた発現抑制を実現しうるヘテロ核酸を、我々の研究室で開発した。mRNA、non-coding RNA、micro RNAなどの様々な分子に対してデザイン可能であり、新規創薬としてのブレイクスルーをもたらす可能性がある。この成果を基に、東京医科歯科大学発のベンチャー企業「Rena Therapeutics」社が設立され、やはりトランスレーショナルリサーチを推進している話題にも言及したい。
我々は臨床医として、自身の手がけた研究成果を患者さんに届けることにモティベーションを見出し、分子生物学の研究を行っている。分子生物学の研究成果は、学問の発展に寄与するのみならず、実用化を目指すことのできる有望なシーズを多く含んでいる。分子生物学の研究成果をトランスレーショナルリサーチへと発展させる意義や方法につき、アカデミアの立場から議論したい。
はじめに
当社は、東京農工大学で発見された要素技術をきっかけに、2005年に創業した。研究室での発見をきっかけに、自分達の手で世の中の課題を解決し貢献できる!という熱い思いだけを頼りにスタートアップし、運に助けられ、また多くのご縁に支えられて、現在はペプチド医薬品に特化した研究開発事業に取り組んでいる。本講演では、弊社における要素技術の発見、展開のストーリーを踏まえ、ラボでの発見を社会価値に繋げる上で重要と思うことについて共有したい。
シード技術の開発(創業前)
当社の基盤技術に繋がる発見は、演者の当時の研究テーマであった、有機電解反応開発に由来する。通電する為には反応溶媒中に指示塩を溶解させる必要があるが、合成後の化合物は塩から単離する必要があった。そのため反応数をこなすには後処理工程が律速になることから、この問題の解決を試みた。結果として、温度変化によって、均一/不均一をコントロールする疎水性有機溶媒と親水性有機溶媒の組み合わせを見出すことに成功した(Fig.1)。
ペプチド用途への展開
しかしながらこのシード技術には問題もあった。まず、ターゲット化合物の疎水度によって分配効率が変わってしまう。また、一定の分離能力を保持した疎水性分離補助基をターゲット化合物に付加させ、タグとして利用すれば物質生産方法としてターゲット化合物に依存せず、普遍的に分離の簡便性を享受できるが、タグの脱着の手間がかかる。ここまではTechnologyアップの方向性を示すものである。更に進んで、これらの技術を活用出来るマーケットを考えると、当時ペプチド医薬品の分野は樹脂をタグとして利用する固相合成法(SPPS)が主流であった。当社の可溶性タグをペプチド分野に持ち込む事で、従来の製造技術の弱点を克服しうると考え、ペプチドに焦点を絞った開発を進めてきて、Molecular HivingTMの事業化に成功した(Fig.2)。
ラボの発見(Science)を社会価値につなげるには
上述したストーリーはラボでの発見がベンチャー事業を通じて社会に還元されていくプロセスの一つを紹介したに過ぎないが、新しい発見とそこから事業化までの間には大きなギャップが存在する。ラボの発見は「新しい」のはほぼ間違いないが、「何に役に立つ」かはその段階では分からない事が多くある。ギャップを見極め、埋めていくために、その「新しい発見」の本質は何か?という足元を見る目に加え、世の中が向かう方向性を見極めながら今後どのような解決策が必要となるか遠くを見つめる目の双方が必要であると実感している。その上で、自らがゲームチェンジャーに成れるストーリーを創造し、既存の常識に囚われる事なく挑戦し続けるところにベンチャー事業の醍醐味があると思う。
製薬企業は「自前主義」を見直し、オープンイノベーションを開発戦略の中心に据えつつある。その背景には、分子標的治療を実現するバイオ医薬品やDDS、治療行為と一体化した再生医療等の技術の台頭も存在している。これら新しい医療の開発を担う主体として、病院を有する大学等の公的機関の役割が益々重要となっている。
医療開発の新しい枠組みにおいては、大学等の研究成果に基づく開発シーズが、医師主導治験等による安全性・有効性の検証(トランスレーショナルリサーチ)を経て、製造販売を行う企業にバトンタッチされていく。しかし技術移転後の開発フェーズには多額のコストが必要で、投資の担保やインセンティブの意味で特許の存在は欠かせない。低分子医薬シーズの開発においては、これを製薬企業が確保してきたが、新しい枠組みでは、開発の初期段階を担う大学等で特許を確保しておかなければならない。知財戦略について、大学で真摯に取り組む必要が生じてきたのである。
残念ながら現時点において、大学側にその備えが十分あるとは言い難い。発明が生まれたら、弁理士に特許明細書を書いてもらって企業に売る、という古いTLOのビジネスモデルに沿って、基礎研究成果を特許に「翻訳」した程度の特許がいまだに量産されている。しかしそもそも、論文と特許明細書とは目的の違う文書であり、それらを生むために必要な研究戦略も同じではない。研究者が論文用の研究成果を弁理士に丸投げして特許明細書を書かせる行為は、論文の執筆(あるいはストーリー構築)を代筆業者に任せる行為に等しい。もちろん、特許明細書は法律文書であり、個々の研究者にこれを作成するほどの専門性を求めることも非現実的といえる。理想的な特許を生み出すためには、研究者が特許や開発に対する最低限の知識を身に付けるとともに、大学等においても特許・研究・開発に精通した専門人材によるサポート体制を整えることが必要といえる。
2013年から「ヤング・サイエンティスト・プログラム」の一環として米国研究製薬工業協会(PhRMA)の支援のもと、モーリーン・アンド・マイク・マンスフィールド財団(本部:米国ワシントンDC)とともに実施している、グローバルに活躍する人材育成を目的とした米国研修プログラムです。本年9月の実施で、第4回目を迎えました。
具体的には、医薬に携わる日本の若手研究者を米国に短期間派遣し、米国におけるトランスレーショナルリサーチ、保健医療政策、医薬品研究、規制慣行について知見を広げ、この経験をもとに新たなシーズ創出へと活かす機会を提供しています。
派遣される日本の医療・医薬品研究分野に携わる研究者の方々は、ワシントンDC、フィラデルフィアおよびボストン等において、米国政府の医療政策部署、シンクタンク、医薬品研究部門、民間製薬会社、大学等における関係者が、それぞれ新薬開発から製品化に至るまでの過程でどのように連携しているかを含め、米国のトランスレーショナルリサーチや医療エコシステムの実情を幅広く学ぶ機会を得ています。
今回のシンポジウムでは、企画段階から「マンスフィールド-PhRMA研究者プログラム」参加経験者の皆様に携わって頂きました。
プログラム詳細、モーリーン・アンド・マイク・マンスフィールド財団に関しましては、下記リンクからもご参照頂けます
■The Maureen and Mike Mansfield Foundation
【2016年プログラム参加者の声】
PhRMAは第39回日本分子生物学会年会との共催により、去る2016年12月1日、パシフィコ横浜 会議センターにおいて、ライフサイエンスにおける若手基礎研究者を対象に、「第4回ヤング・サイエンティスト・シンポジウム」と題した研究会を開催しました。
同シンポジウムは、PhRMAが2013年に発表した、基礎研究に携わる日本人の若手研究者を対象とした人材育成支援プログラム『ヤング・サイエンティスト・プログラム』の一環として実施しているものです。創薬分野における若手研究者の果たすべき役割の重要性をグローバルな視点で再認識してもらうこと、研究意欲のさらなる向上、創薬分野で世界的に活躍できる人材を育成することを目的としています。
2015年12月に続き、第4回目となる今回のシンポジウムは第39回日本分子生物学会年会のプログラムの一つとして、ランチョンセミナー/フォーラムの2部構成で実施しました。
第1部ランチョンセミナーでは、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)教授 井上治久氏がモデレーターとなり、名古屋大学大学院医学系研究科 神経内科教授の勝野雅央氏が「トランスレーショナルリサーチ入門:研究が実用になるまで」と題した講演を行いました。
初めに、Johnson & Johnson INNOVATION、Asia Pacific Innovation Center、New Ventures Japan Directorの楠淳氏が「Johnson & Johnsonの海外におけるオープンイノベーションへの取り組みと日本におけるチャレンジ」と題し、グローバル企業の立場からオープンイノベーションについて講演を行いました。続いて、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)戦略推進部医薬品研究課 主幹 草間真紀子氏は、「AMEDにおける取り組みの紹介」と題し行政の立場から、東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 脳神経病態学 特任助教 桑原宏哉氏は「アカデミアによる分子生物学の研究成果を創薬開発につなげる試み」について、札幌医科大学 医学部医科知的財産管理学 教授石埜正穂氏は「医療開発研究を行う大学において必要な知財戦略」について、それぞれアカデミアの立場から講演を行いました。また、JITSUBO株式会社 代表取締役 河野悠介氏は「ラボでの発見を社会価値につなげるプロセス」と題した講演を行い、研究室での発見をベンチャー事業を通じ、社会に還元するプロセスについて紹介しました。
後半では、上述の講演者5名と参加者を交えたパネルディスカッションを行い、若手研究者のキャリアデザインや、研究をいかに実用につなげていくかについて議論するなど、活発な意見交換を行いました。
アンケートを通し、講演内容と今後取り上げるべきテーマについて、様々なご意見・ご感想が寄せられました。
●第1部
●第2部
【モデレーター】井上 治久 氏
【講演】勝野 雅央 氏
講演の様子
【開会挨拶】 PhRMA日本代表 Amy Jackson
【モデレーター】 勝野 雅央 氏 岡田 潔 氏
【講演1】楠 淳 氏
【講演2】草間 真紀子 氏
【講演3】桑原 宏哉 氏
【講演4】河野 悠介 氏
【講演5】石埜 正穂 氏
講演の様子
パネルディスカッションの様子
第2部 モデレーター、講演者の皆様